さやかに会った二日後に、俊が外国出張から帰国した。翌日、 何時ものように昼に電話をくれた。婦美はさやかのことを言い 出せなかった。三年一緒に暮らしている・・・その言葉の重みを 感じていた。
 「昨日も成田に着いて電話したけど、留守電になってたね」
 「ええ・・・」
 「・・・何かあったね。二、三日メールもなかったし」
婦美は、言葉に詰まった。俊が言った。
 「ご主人と何か?」
 「なんでもないわ。少し疲れてるだけ」
 「元気がないよ。どうしたの?」
 「この次会った時話すわ」
 「何時会える?」
 「平日の昼なら何時でも」
 「忙しくて中々休みがとれなくって」
 「土日に家を空けるわけにはいかないわ」
 「分かった。明日、昼休みを三時までとる。会社の近くまで来てくれないか。」
 「ええ・・・」

  婦美はさやかの面影を思い起こしていた。三十歳は越している だろう。少し感情的なところがあった。彼女は心から俊を愛して いるのだろう。三年も俊と共に暮らしてきたのだ。婦美に俊と別 れてくれという権利くらいある。婦美はベッドの上に寝て枕に顔 を埋めた。自分だって結婚している。俊のことをとやかく言えな い。しかし会いたい。
  翌日婦美は東京へ向かった。本社ビルの近くの俊の指定したレ ストランを見つけて入った。俊は既に来ていた。彼女は一人の 男性なのだ。婦美は、こわばった微笑を浮かべて席に着いた。 直ぐにウェイターが来た。彼女はランチを注文した。
 「・・・どうした?元気ないよ」
 「一昨日大内さやかという人に会ったわ」
俊は驚いたらしい。すぐには言葉がなかった。
 「大内さんってどういう人?」
 「一言で言っておこげだよ」
 「それだけで三年も一緒に暮らしたの?」
 「暮らした?付き合っただけだよ。大学生の頃からの腐れ縁て奴だよ」
 「暮らしてないの?」
 「半同棲だね。彼女は彼女で部屋があるよ」
 「貴方と別れてくれと言われたわ」
暫く時間をおいて、俊が呟くように言った。
 「婦美と別れるなんてもう二度と考えられない。耐えられない」
そして、俊は遠い目をした。
 「小鳥の公園を覚えている?あの不思議な夜の事を・・・」
俊が言った。
 「僕たちは別れるべきだと思う?」
小鳥の公園。二人の聖域だ。婦美は黙ったままだった。
俊は言った。
 「少し時間をくれないか」
 「わかったわ。今日はもう帰るわ」
婦美は食べることなく、レストランを後にした。苦い重苦しい思いが残った。
            

第二章 おわり
 
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